こどもには権利がある。ミュンヘンの子ども参加のまちづくり

「子どもと家族に優しいまち」

この記事は、東京都練馬区まちづくり講座 ミュンヘン市の「こどもと家族にやさしいまち」に参加をし、文字におこし、僕なりのコメントを加えたものである。当日の内容のすべてを、網羅できていないことを先にお断りしておく。

ドイツ・ミュンヘン市

ミュンヘン市 こどもの参画専門員 ヤーナ・フレドリッヒ女史 大学ではジャーナリズムを専攻。過去にバイエルン放送局で、子ども放送局の担当をしていた。現在は、ミュンヘン市社会福祉局のこどもの参画専門員をしている。 ※「こどもの参画専門員」の名称は今回のイベントに合わせ卯月 盛夫 氏(早稲田大学社会科学部社会科学総合学術院教授)が、訳したものである。直訳では、こども代理人などの訳になるらしい。

ミュンヘン市の概要

ドイツの連邦州であるバイエルン州最大の都市で、人口140万人。ドイツでは、3番目に大きな都市である。25区に分かれている。 ミュンヘン市のこども政策「子どもには権利がある」というスローガンのもと、

1.子どもの発展 2.子どもの保護 3.子どもの参画

の3つの柱から行われている。今回は、3つ目の柱である「子どもの参画」について、ミュンヘン市の具体的取り組みが紹介された。logo

(ミュンヘンの子どもたちは参加する。展望が大切!)

なぜ、ミュンヘンは「子どもの参画」のまちづくりをするのか。

まず、子どもの参画を重要視するのは、こどもの声はいつでも忘れがちになることが多いからです。こどもはそのまちに住む住民であるから、大人と同じように権利を持っています。 そして、これは長年、こどもの参画したまちづくりについて取り組んできたから、わかることですが、子どもが悪いと考えることは、すべての住民にとって悪いことです。また、子どもが良いと思ったことは、すべての住民にとって良いことなのです。そして、子どもの出す提案は、大人が出す提案に比べて、子どもが素直であることから、非常に合理的で、経済性の高いものが多いです。子どもがまちづくりに参画することによって、大人にもやさしいまちになっていくということなのです。 大人たちは、子どもがまちづくりに参画することは、難しいと考えます。しかし、実は子どもはすぐに参画することができますが、逆に、大人たちはそれに馴染むことができないのです。

ヤーナ・フレドリッヒ

ミュンヘン市の「こどもと家族にやさしいまち」の歴史

ミュンヘンの「こどもと家族にやさしいまち」の取り組みは、かなり昔から行われている。このあと紹介する「子ども・青少年フォーラム」は25年の歴史がある。 公的な歴史としては、2001年に「ミュンヘン-子どものまち」というヤーナ氏が中心的に関わった条例が、市議会で全会一致で可決されたのがはじまりである。内容としては、国連子どもの権利条約に沿って、それを具体的施策として行なっていくものだ。 2007年には、「子どもと家族政策」の指針に、子どもと家族にやさしいまち市の発展を目指す戦略的目標を「ミュンヘンの展望」として明記された。 ミュンヘン市の考える「参画」の概念についてだが、これはなかなか良いものを見つかっていない。しかし、「参加」についてはミュンヘン市では以下のように考えている。 参加とは? 個人の生活及び共同の生活に関する決定を分かち合うこと、そして、問題解決の方法を一緒に見つけること。 これは、ヤーナ氏の同僚の文献の中で使われた言葉で、ミュンヘン市は「参加」の意味をこのように定義している。

子どものアクショントランク

「子どものアクショントランク」は、ミュンヘン市にある25区の各区で行われているローカルな取り組みである。(地域によってばらつきがあるが、その区に住む30〜80%の子どもが参加する)

子どもたちは、自分の住む地域のことについて、自らの足でトランクを持って、調査をする。トランクの中には、調査のために必要なもの(カメラ、住民へのアンケート用紙、ペンなど)が入っている。
具体的には、5つの段階から子どもはまちづくりに参画をしていく。
 
1.自分たちの地域を観察する。
2.自分たちの遊び空間と、生活空間に積極的に向き合う。
3.自分自身の関心事を、自分の言葉で表現する。
4.刺激策や、提案を考え出す。
5.それを公表する。
 
まず、子どもたちは、小さなグループになってまちを歩く。歩きながvoe-aktionskofferら、「ここの遊具はこうしたほうがいい」「この街灯が暗い」「ここ場所はみんなが大切に使っている」など、各々に感じたことを話す。その中で、近隣住民からアンケートをとったり、写真を撮りながら調査をすすめる。
 
そして、子どもたちは、自分のまちで興味を持ったことについて、ポスターをつくったり、写真を使ったりしながら大人たちの前で発表をする。
そのあと、直した方が良いところについて、発表の場を設ける。前述したが、ここで出る子どもの改善策は、とても合理的で、経済性が高い。その改善策を最大限に現実化していく。
最後には、子どもたちからどんな改善策が出たのか、それがどこまで実現されたのか、についてのレポートを発行する。子どもたちはレポートを見て、自分の提案が、実現されたのか、それとも全くされていないのか、ということをそのレポートで知ることができる。ゆえに、これが一番大事であるとヤーナ氏は強調した。

ミュンヘン子ども・青少年フォーラム

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 概要 これは25年の歴史がある取り組みで、年に2回実施している。内容としては、9歳から16歳の子ども・若者が参加をし、自らの意見を述べ、さらに決定を下すことができる。参加を希望する人がいれば、誰でも参加することができる。これは、区ごと行われるものと、ミュンヘン市全体で行われるものがあり、当日はミュンヘン市で行われる大きなフォーラムについての話がされた。

フォーラムの準備 まず、フォーラムでのテーマを決めるために、ミュンヘン市のこどもの参画専門員である私の他に、子ども・青少年の参画に関わる活動をしているNPO・NGO関係者にスタッフとして学校を訪問してもらう。NPO・NGO関係者の協力は必須で、彼らをパートナーだと考えている。このフォーラムについても、一方的にお願いするのではなく、フォーラムをつくっていく段階から、NPO・NGOの関係者には参画をしてもらっている。

フォーラム当日 b_2159_1200 写真は実際のフォーラムの様子。この場所は、ミュンヘン市の市議会が実際に行われる会議室である。写真左下の机には、大人が座っている。彼らは、政治家、行政、関係機関、ジャーナリストなどの代表者だ。

フォーラムの流れ 1.動議の提出 子ども・青少年たちから動議が提出される 2.議論 提出された動議に関して、議論を進める。 3.採択or不採択 その場にいる(子ども・青少年のみ)50パーセントの賛成があれば、採択となる。 4.採択されたものは…。 その場にいる大人(政治家、行政などの代表者)から、その動議を実現するうえで最も適した人物を選び、その人の責任で実現される。この時、動議を提出した子どもと、選ばれた大人はともに契約書を書き、互いの連絡先(住所、電話番号など)を交換する。そうすることで、子どもはどの程度実現されているかのチェックをすることができる。 ※契約が結ばれてから、3か月以内には具体的な実現の方法や、実現化することがルールになっている。 5.不採択されたものは…。 こどもの参画専門員であるヤーナ氏が必要だと感じたものに関しては、ヤーナ氏の責任のもと実現化される。

  動議の 具体例(区のフォーラムでの動議) 1.道路の動物の汚物をどうにかしてほしい! (内容) 街中の公園や、道路にある動物の糞などをどうにかしてほしい。という要望 (解決策) 道路や公園を管理する市の担当課が責任者になった。子どもたちと一緒に街中に出て、汚いといわれている場所に行き、犬の糞の形をしたプラスチックでできた模型を道路にたくさん置いて、キャンペーンをした。 その場を通った、大人たちは笑いながらそのキャンペーンを見ていた。 2.遊び場を変えてほしい! (内容) まちの子どもたちの遊び場の遊具などを変えてほしい。という要望 (解決策) ミュンヘン市の建設課が担当になり、契約を結んだ翌週に、現地視察を子どもたちと行った。遊びの専門家である子どもたちと、建築の専門家である市の担当者で意見を言いながら、一緒に改善案を考えた。近隣住民の声も聞いた。 実際に、遊び場のリフォームがされると、子どもたちは大切に遊具などを使うようになり、以前にくべてその遊び場の修繕費が大幅に減った。 3.学校の周りの道路が車のスピードが速くて怖い。 (内容) 子どもたちの通う学校の周辺の道路は、親が子どもの送り迎えに使っていたりなど車の行き来が多く、そのスピードも速くて怖いからどうにかしてほしい。という要望。 (解決策) 子どもたちの提案で、警察を動員して速度調査を行うことになった。警察は最初、そんなことでこの問題が解決するはずがない、とやるのを嫌がっていたが、実際にやってみると子どもたちも一緒に参加をして、スピード違反をするドライバーに対して、「そんなtempomessungはやく走ったら危ないよ」「もっとゆっくり走って」などと警察と一緒になって注意をすることでかなり効果的だった。 警察はこの結果を見て、今後も継続的にこのキャンペーンをするきっかけになった。

  動議の具体例(ミュンヘン市での動議) 1.地区の図書館の閉鎖をやめてほしい。 (内容)市は、金銭的な理由から、ラーマ―スドルフ地域図書館という、ラーマ―スドルフにある図書館を閉鎖し、地域の住民は、近くにある中央図書館を利用すべきだ。と提案をしていた。 しかし、こどもたちは、中央図書館へ行くのには子どもの足では遠いし、複雑すぎる。図書館を閉鎖しないでほしい。と、要望を出し、フォーラムで採決された。 (解決策) この動議で契約をした大人はミュンヘン市の市長だった。市長は責任を持って、図書館の維持に向け尽力し、地域図書館は閉鎖しない、という決議がミュンヘン市議会でされた。

2.青信号が短すぎる! (内容) インスブルッカー・リングとヘヒトッセ通りの交差点にある横断歩道は、青信号の時間が短く、子どもは走らなければ、間に合わない。そこは、猛スピードで走る車も多く危険。 (解決策) 迅速に処理されたが、失敗に終わった。群当局の担当部署は、歩行者用青信号の時間はすでに規定よりも長く設定されているとして、この申請を却下した。その代わりに、右左折者が横断する歩行者に気付きやすくするために、右左折者用の点滅信号が設置された。

おわりに

ミュンヘン市のホームページの「子どもの参加」というページには大きく「子どもには参加する権利がある」と書かれている。上記した取り組みからもわかるように、子どもが参画すること(意思決定に加わること)が徹底的に守られている。 静岡県でも、子ども県議会というものが年に1度程度行われているが、(趣旨が異なっているかもしれないが)その内容は、ミュンヘン市とは比べ物にならない。

国内でも、内閣府の平成25年度「子ども・若者白書」第2節 子ども・若者の社会形成・社会参加支援の中で、子ども・若者の参加、参画が求められており、その重要性は増している。そんな中、長年子ども・若者の参加、参画に取り組んできたドイツの取り組みから学べることは多いだろう。 しかし、ヤーナ氏の言葉にもあったように、子ども・若者の参画を進めていくうえで一番の課題は大人の意識である。長い歴史を持つミュンヘン市でさえ、子ども・若者の参加、参画を妨げてしまうような大人の意識に苦労することはまだ多いという。 仮に、国内にドイツのような取り組みをそっくりそのままやってみたとしても、それをやる大人の意識が変わらない限り、真の参加、参画にはならないだろう。

また、ヤーナ氏は、講演の冒頭で「子どもの権利条約」について触れていた。 「ドイツは子どもの条約に批准しているのだから、それに遂行であるべき。ミュンヘン市の子ども・若者に関する政策はすべて、子どもの権利条約をもとに考えている。」 日本ももちろん「子どもの権利条約」に批准している国のひとつである。日本でも、様々な取り組みがなされているが、真の参加、参画と呼べるものは数少ない。 私たちは、本当の意味での「参加」、「参画」とは何か。ということについて、ミュンヘン市の取り組みから、問い直さなければいけない。 参考 両角達平 『ドイツの「子どもにやさしいまちづくり」が本気すぎて学べる』