まちづくりの実験

「子どもの専門家は子ども」子どもを支えるドイツの制度

この記事は、2018年に文部科学省のドイツ派遣団として「日独青少年指導者交流セミナー」に参加した経験に基づいています。

この場を借りて、文部科学省及び本事業の主体である(特非)日本冒険遊び場づくり協会、ドイツ派遣のすべての受け入れ団体に感謝申し上げます!

ドイツの政治制度の基礎

ドイツの子ども政策についてお伝えする前に、ドイツの基礎的な政治制度を紹介します。

ドイツの正式名称は「ドイツ連邦共和国」で、連邦共和制を採用しています。共和制とは、「人民または人民の大部分が統治上の最高決定権を持つ政体」のことです。

連邦共和制を採用しているドイツでは、旧西ドイツの10州、旧東ドイツの5州及びベルリン州の16州に主権の一部が移譲されており、中央政府は州の政治を補完しています。

実際に、連邦政府(中央政府)の行政権は、ドイツ憲法に相当する「ドイツ連邦共和国基本法」に限定列挙されていて、外交や国防などが挙げられています。

そのほかの行政権に関しては、州などの地方行政に属しています。各州がそれぞれ憲法を持っていることからも、州の独立性の高さが伺えます。

補完性の原則

これは、戦後ドイツの社会的市場経済を支える原則として採用されていた「補完性の原則」の考え方が大きな背景にあります。

補完性の原則 / Subsidiarity

決定や自治をできる限り小さい単位で行い、できないことのみを大きな単位の団体で補完していく概念(矢部2012)

日本ではなんとなく連邦政府(中央政府)が強くて、国の方から地方にどんどん降りてくるイメージがありますが、ドイツでは逆に地方が強い決定権を持っています。

補完性の原則の元をたどれば、キリスト教の社会思想で用いられた原則で、欧州統合推進においても重要な役割を果たし、欧州の自治保障のための国際条例にも明記されています。

連邦 外交、防衛、通貨、関税、外交、郵便・電気通信、警察に関する連邦と州の協力、経済法、労働法、社会法、交通法、民法、刑法など
教育制度、文化政策、地方自治制度、警察制度

参考:(一財)自治体国際化協会「ドイツの地方自治」

補完性原則は、大人と子どもの間の関係にも働きます。

子どもに関わる決定や自治は子どもに優先され、子どもができないことに限り、大人が補完していくことが前提的な考え方になっています。

子ども・若者支援法(KJHG)

ドイツの子ども・若者に関する法律は、社会法典第8編あるいはその別名の「子ども・若者支援法(KJHG)」によって定められています。ちなみに社会法典は、各社会保障分野の基本法で、全12編で構成されています。

「子ども・若者支援法(KJHG)」では、第8条で3つの参画原則が定められています。

参画の原則

  1. 両親、子ども・若者は、サービスの受益者である。
  2. (子ども・若者は)意思決定過程に参画する権利がある。
  3. 専門スタッフは彼らを参画させる義務がある。

これらの参画の原則をもとに、同法のなかで、具体的な子ども・若者支援の内容を定めています。

例えば、第5条「希望・選択権」では、(子ども・若者)施設及びサービスを選ぶ権利、第11条「青少年育成活動への参画」では、子ども・若者の参画と共同決定は青少年育成活動の基礎であることが明記されています。

「子どもの声」を環境騒音から除外

ドイツ社会が「子ども」をどのように捉えているか、具体的な法律をひとつ紹介します。

ドイツでは、2011年に「子どもの声」をめぐる連邦法「連邦イミシオン防止法」の改正案が可決され、乳幼児や児童保育施設、児童遊戯施設などから発生する音を、環境騒音から除外しています。

つまり、子どもが発する音(笑い声、鳴き声、叫び声など)を騒音の賠償請求の対象から除外したのです。

児童保育施設、児童遊戯施設、及びそれに類する球技場等の施設から子どもによって発せられる騒音の影響は、通常の場合においては、有害な環境効果ではない。このような騒音の影響について判断を行う際に、排出上限及び排出基準に依拠することは許されない(22条1a)

この法律の改正には、2007年から2008年頃から、子どもの騒音を理由とした訴訟が増えたことが背景にあります。

ベルリンの幼稚園では、子どもの騒音を理由に住民訴訟が起こり、閉鎖・移転などが相次いで起こりました。これを受け、ベルリン州は子どもの騒音を保護する法律を可決させています。

こうした州レベルの法改正もあり、2011年5月に連邦法が改正されたのが全体の経緯です。

ミュンヘンの子ども政策

ミュンヘン市はバイエルン州の最大の都市で、人口は約140万人。ドイツのなかでは3番目に大きな都市です。

今回のドイツ派遣で私たち派遣団が訪問した都市のひとつでもあります。

ミュンヘン市は先進的に子ども施策に取り組んでいます。日本に広がる「こどこのまち」のルーツであるミニ・ミュンヘンがはじまったのもこのまちです。

ドイツのなかでもいち早く、1996年に「子どもと家族にやさしい都市」を掲げ、様々な子ども施策に取り組んでいます。

こうした取り組みの大きな背景には、1989年に国連が採択した「国連子どもの権利条約」の枠組みがベースにあります。

この条約をローカルのレベルで実践しているのがミュンヘン市ともいえるでしょう。

ミュンヘン市の子ども政策のスローガンは、「子どもには権利がある」です。

このスローガンに基づき、下記の3つの柱で政策は構成されています。

①子どもの発展

②子どもの保護

③子どもの参画

とくに「③子どもの参画」に、ミュンヘン市は力を入れており、補完性原則で紹介したように子どもの専門家は子どもを前提とした政策推進をしています。

1997年以降、ミュンヘンの25の地区のすべての地域委員会に、子ども参画を推進するための「子どもの参画専門員」を配置し、専門員のコーディネーションで様々な子育て、子ども参画のプロジェクトに取り組んでいます。

2012年からは、ミュンヘン市の職員として「子どもの参画専門」が配置され、各地区の専門員同士のネットワーキングや、市レベルでのプロジェクトにも取り組んでいます。

ちなみに2014年8月に、このミュンヘン市の子どもの参画専門員が、日本で講演をしています。その記事は下記リンク

こどもには権利がある。ミュンヘンの子ども参加のまちづくり

基本構想「ミュンヘンで遊ぼう」

また、2000年には、「子ども・家族にやさしい都市」の10年計画の基本構想として「ミュンヘンで遊ぼう」が打ち出されています。

「ミュンヘンで遊ぼう」は、社会部、建築部、学校部など、行政内の様々な部局間の連携に加えて、子どもの遊びに関わる民間団体との協働によって、遊び場づくりに取り組むための基本方針になっています。

「都市はそれ自体では子ども、若者、家族に理想的な環境を築くことはできない。

子どもや若者がよい方向に発達するには、都市の生活環境において、彼らが愛着の感覚を得るためにも、自由に動くことができて、刺激を得て、スポーツをしたりゲームをしたり、それと同様にグループの中で自分が認められて、学び、発見するニーズが満たされる必要がある」 (ミュンヘン市副市長)

ミュンヘン市の副市長は、「ミュンヘンで遊ぼう」を打ち出した理由をこのように述べています。

「ミュンヘンで遊ぼう」の策定に至るまでには、子どもを成長過程の人間として見るのではなく、生活のなかで自由に使える確かな力を持った人間という子ども観が基盤となっていました。

この確かな力を持った子どもの創造性を最大限に発揮させていくためには、まち全体・風景全体が、子どもの遊びと学び、文化のための風景でなければならない、「遊びの風景の都市」を目指していこう!の目標のもとに、「ミュンヘンで遊ぼう」は打ち出されました。

「ミュンヘンで遊ぼう」は都市開発目標の位置づけであり、子どもの遊びに関わるプレイワーカーや教育関係者のみならず、ランドスケープデザイナー・都市計画家など、幅広い分野の人が一体となって取り組んでいます。

遊びの質やプログラムづくりといったソフト面だけでなく、公園や建物、風景といったハード面も遊びのあるまちにしていくことがミュンヘンでは取り組まれているのです。

ドイツの政策から学ぶこと

ここまで見てきたように、連邦レベルから州レベル、市町村レベルへとドイツの子ども政策は重層的な法制度が整えられています。

その理念には、「子どもの専門家は子ども」の一貫した価値観が共通しています。そして、この価値観をつくっているのは、ドイツのなかの重要な思想となっている「補完性原則」です。

少子・人口減少時代にあるいまこそ、子どもをサービスや支援の「対象」とするのではなく、ともに社会をつくる「主体」として転換していくことが必要ではないでしょうか。

日本らしい子ども政策の推進に向けて、引き続き頑張っていきます!

プロフィール 土肥潤也/Junya Dohi

ABOUT ME
土肥 潤也
「コミュニティファシリテーター」という肩書きで、すべての人が主役になれるコミュニティづくりに取り組んでいます。コミュニティラボCO-℃(コード)代表、NPO法人わかもののまち 代表理事、日本シティズンシップ教育フォーラム運営委員、内閣府「子供・若者育成支援のための有識者会議」構成員