ファシリテーションは、日々の会議や話し合いの場を促し、創造的な成果に結びつけるためのスキルと考え方です。ファシリテーションについて色々なところでお伝えしていると、こんな質問をよく受けます。
まさにその通りで、今までワークショップ型の会議をしていなかった組織に、いきなりワークショップの手法を導入すると、参加者は逆に戸惑って、話し合いがうまくいかないでしょう。(これを”ファシリテーションショック”と呼んでいます)
そこで、ひとつ強くオススメしているのが、この記事で紹介するオリエンテーションのOARRです。
ちなみに、こういう質問を下さる方には、いつも「あなたはどんなことが活かせそうだと思いますか?」と逆質問をして、一緒に考えるようにしています。あくまでも僕からのオススメであって、自分で使って考えてみてねってことですね!
オリエンテーションのOARRとは?
オリエンテーションのOARRは、グローブ・コンサルタンツのデイビット・シベッツさんが開発した、話し合いオリエンテーション、つまり導入時に参加者に示す方向性のことで、4つの項目で構成されています。
その場を共にする参加者全員がオール(OARR)を握って、航海に出るイメージからOARRと名付けられています。

こんな感じのイメージですね。具体的には下記の4つです。
Outcome(成果、この場が目指すゴール)
Agenda(議題、大まかなスケジュール)
Role(参加者に期待する役割)
Rule(おやくそく)
会議や打ち合わせ、研修、ワークショップなど、あらゆる場で、この4つを参加者の皆さんと共有してから、会を始めるようにしています。
まず、OARRのそれぞれの項目について説明をしてから、具体例をお示ししたいと思います。
Outcome(成果、この場が目指すゴール)
まず、 Outcome(成果、この場が目指すゴール)です。
Oは、Outcomeだけでなく、Outputとして説明されることもあります。
つまり、この話し合い(会議やワークショップなど)で、何を達成したいのか?何をアウトプットとして出したいのか?を明らかにしておくということです。
話し合いの場では、Outcomeが明確でないことが多々あります。皆さんの中で、「今日って何を話すために集まってるんだっけ?」と感じる会議に参加されたことがある方も少なくはないでしょう。
例えば、いつもの会議で、
と言われるよりは、
と、伝えてもらえた方が、今日はそういう会議なんだな!と、参加者がひとつのゴールに向かっていけます。
逆に、Outcomeが不明確な話し合いは、ゴールがどっちからわないサッカーみたいなもので、そんな場だと、参加者が好き勝手にボールを蹴って、収集がつかなくなってしまいます。
ちなみにOutcomeは、話し合いの時間や参加者に合わせた適切な設定が求められます。
例えば、その会議に参加している人に意思決定権がないのに、意思決定することまでをOutcomeに設定しても達成することができません。他にも、30分しかない打ち合わせで、高すぎるOutcomeを設定しても、達成することは難しいでしょう。
話し合いのOutcome(目標・ゴール)を明確にして、ひとつひとつの話し合いで、きちんとOutcome/Outputを出していきましょう。
Agenda(議題、大まかなスケジュール)
次が、Agenda(議題、大まなかスケジュール)です。
スケジュールがわからない話し合いに参加していると不安がいっぱいです。
「あのことについて話したいんだけど、時間は確保されてるのかな?」「今日って何について話すんだろう?」「いつあの議題について話せるかな?」
Outcome(成果、この場が目指すゴール)を達成していくために、どんなAgenda(議題)設定をして、話し合いを進めていくのか、事前に参加者に共有しておくことが重要です。
また、議題ごとに大まかなタイムスケジュールも共有すれば、それぞれの議論の時間のコントロールもできます。
こんな風に、議題とタイムスケジュールを会議の最初に共有してもらえれば、参加者は「Aはサクッと決めないとだな」と主体的に参加できたり、「Cは重要な議題だから議題の順番を先にしてはどうでしょうか?」あるいは「Dという議題についても話したいのですが、Cのあとに時間をもらえませんか?」などと提案することもできます。
話し合いの道筋を最初に示して、参加者の皆さんと航海路を合意してから、話し合いに入っていきましょう。
Role(参加者に期待する役割)
次は、Role(参加者に期待する役割)です。
「自分は何で呼ばれたんだろう?」と疑問を持ったまま、会議や話し合いに参加した経験はありませんか?
あなたは何らかの理由で、その場に呼ばれているわけですから、きっと主催者から期待を寄せられているはず。その期待を伝えるのが、Role(参加者に期待する役割)です。
ひとつ例を紹介しましょう。
以前、インターン生の男の子と一緒にとある打ち合わせに参加しました。その打ち合わせでは、彼は全く発言をせず、ひとりでメモを黙々と取っていました。打ち合わせが終わった後に、「なんで発言しなかったの?」と尋ねてみると、「え?発言してよかったんですか?」と言われた経験があります。
まさに、Roleを伝えていなかったことで起こってしまったことでした。
と、打ち合わせの前に一言伝えておくだけで、彼の発言量は大きく変わったはずです。
「こんなことをあなたに期待しているから、よろしく頼むね!」とRoleを伝えられた人は、「そんな期待されてるんだったら、頑張って参加しないとな!」と、主体的な参加を促すことにもつながります。
また、Roleは期待を伝えるだけでなく、同じ場を共にする人の役割を明らかにすることにも繋がります。
例えば、行政が主催するワークショップでは、なぜかまわりをうろちょろしているスーツの人がたくさんいます。大体は、偉い人だったりするわけですが、参加している人からしたら「この人たちなんなの?」と不安に思うはずです。
と一言伝えるだけで、「あ、あの人は見学してるんだな」と役割を理解して、安心して参加することができます。
会議や打ち合わせの場で役割を明確にすることは、とっても重要です。
Rule(おやくそく)
最後が、Rule(おやくそく)です。
ワークショップに参加されたことがある方なら、ファシリテーターが会のはじめに「今日の話し合いには、おやくそく(グランドルール)があります。」と話しているのを経験したことがあるでしょう。これがRuleのことです。
ワークショップで、よく使われるのは、下のようなルールです。
・みんな対等に話せるように心がけましょう
・聴く心を持って参加しましょう
・相手の意見を批判してはいけません
・決めつけはやめましょう
・ひとりで長く話さない
こんな感じでしょうか。(僕はあんまり上に書いたようなルールを使いませんが 笑)
ルールづくりにもコツがあります。
まず前提としてその場に合わせたルールを設定する必要があります。
例えば、「相手の意見を批判してはいけません」というルールは、アイデアを拡散する会議では効果を発揮しますが、研究者にとってはあり得ないルールです。
研究とは、自分の仮説を立証するために、社会で起きているあらゆる現象を批判的に検討する営みです。批判的思考によって新しい発見に繋がっていくこともあります。また、研究だけでなくても、新規事業を検討する会議など、批判的な意見が求められる場は多くあります。
実際に使うとこんな感じ
ここまでOARRのそれぞれの項目について、丁寧に説明をしてきました。
ここからは、実際にOARRを使うとどんな感じになるか、具体例をあげて説明したいと思います。
まず、僕が普段やっている「ファシリテーション研修」ならこんな感じです。
どうでしょうか?
もちろん研修の内容によって、少しずつ変わってくるわけですが、会のはじめにOARRが共有されるだけで、この場が向かう方向が明確になってきます。
OARRは日々の打ち合わせでも、活用することができます。
例えば、とある会社のZという事業に関して、先輩のAさんが新入社員のBさんに進捗共有すための30分だけの簡単な打ち合わせを想定します。
このように簡単な打ち合わせであっても、オリエンテーションのOARRを共有することで、方向性が明快になり、その場を共にする人全員がゴールに向かって、話し合いに取り組んでいけます。
とくにOutcomeが最も重要で、成果・この場が目指すゴールがわからない話し合いの場では、参加者が迷子になってしまいます。ひとつの議題についても「◯◯について」のレベルではなく、その◯◯がどんな状態になったらゴールなのかを明確化することが重要です。
オリエンテーションのOARRは、とっても簡単に導入できる手法です。
慣れるまで少し時間がかかるかもしれまえんが、是非実践してみてください!
また、それぞれの項目づくりにも、ちょっとしたコツがあったりします。ひとつひとつに絞って、またお伝えしていければと思っています。