ドイツの子どもの遊び

市民性を育む存在としてのドイツの「遊び教育士/シュピルペタゴーゲ」の考え方

2019年10月7日からの2週間、文部科学省の日独青少年指導者交流事業の派遣団としてドイツを訪問する機会を得ています。

この派遣事業は昨年から実施されており、今年で2年目の派遣です。記事の内容に先立ち、この派遣事業を提供している文部科学省及びその受託先である日本冒険遊び場づくり協会にお礼申しあげます。

日本に広がるプレイパーク/冒険遊び場

一般的な公園と異なり、子どもの想像力に任せ、自由に遊びをつくり出すことができる遊び場を「プレイパーク/冒険遊び場」と呼びます。

日本でも世田谷の羽根木プレイパークを皮切りに、全国の様々な地域でプレイパークが展開されています。(プレイパークについて日本冒険遊び場づくり協会のHPを参照)

そして、そうした遊び場で子どもの遊びを支える役割を担っているのが、「プレイワーカー/プレイリーダー」です。

プレイワーカーは子どもに遊び方を教えるのではなく、遊びの発想の仕方を教える役割を担い、子どもの遊びの補助をする人のことを指します。

「Spiele Pädagoge(遊び教育士)」の考え方

ドイツでは、日本でいう「プレイワーカー/プレイリーダー」のことを「Spiele Pädagoge(遊び教育士)」のコンセプトで共有されています。

少し解説をすると「Spiele Pädagoge(遊び教育士)」は、レムシャイドアカデミーという子ども・若者に関わる継続教育の教育機関が独自に発行している資格です。

2019年度からは、より幅広い人にこの資格を広げるために「Spiele Kultur Pädagogee(遊び文化教育士)」にコンセプトが変更されています。そしてアカデミーとしては、国家資格化されることを目指しています。

ドイツでは一般的に学校外の社会教育に関わるほとんどの人が「Social Pädagoge(社会教育士)」の資格を有しています。「Social Pädagoge(社会教育士)」は国家資格となっており、「Spiele Pädagoge(遊び教育士)」を内包する上位のコンセプトとして位置付けられています。

ここで重要なのは、「Spiele Pedagogue(遊び教育士)」は、Pedagogue(教育士)であって、ただ単に「遊び」を提供するだけでなく、教育的な側面から遊びを捉えているということです。

つまりドイツの中では、社会教育のひとつとして「遊び」が位置付けられており、子どもたちは遊びを通して様々なことを学びます。その学びを支えるのが、「Spiele Pedagogue(遊び教育士)」です。

そして、もちろんその基盤には、子どもの権利条約第31条の「遊ぶ権利」があります。

国連子どもの権利条約 第31条 
子どもは、休んだり、遊んだり、文化・芸術活動に参加する権利があります。

ドイツの遊び場の二分類

今回のドイツ訪問では、様々な形の子どもの遊び場を見ることができました。

ドイツの遊びは大きく分けて2つに分類されます。

ひとつは、特定の場所(公園や空き地など)を使って経常的に展開される「拠点型遊び場」

そして、もうひとつは道や公園、学校など、様々な場所に遊びを運ぶ「移動型遊び場」です。(ドイツは連邦制をとっているように地方分権の進む国で、もちろん州や自治体によって遊びの取り組みにもばらつきはあります)

拠点型遊び場

まず「拠点型遊び場」では、子どもが継続的に遊びに来ることができるため、自分たちで家を作るなど、発展的な遊びが展開されています。

例えば、今回訪問したデュッセルドルフの”Eller”という冒険遊び場では、子どもが複数人のグループで申請をすれば、自分たちの家をつくることができることになっていました。

グループをつくれば、自分たちで家を建てることができる
子どもたちが建てた家の一部

そして、「Spiele Pedagogue(遊び教育士)」は、大工仕事の仕方を子どもたちに教えるなど、家づくりのサポートをします。

また、学校の授業で冒険遊び場に来ることも当たり前になっており、実際に私たちが”Eller”を訪問した時も、小学生たちがクラス単位で遊びに来ていました。

もちろん、これは学校の正規のカリキュラムとして組み込まれています。学校教育と社会教育が協力関係を持ちながら、子どもの学びを支えています。

大工道具が入っている小屋

学校の授業で遊びに来ると聞くと、遊びが押し付けられているような印象も持ちますが、重要なのは「Spiele Pedagogue(遊び教育士)」は、学校の先生とは異なる関わり方をすることです。

つまり、遊ぶか遊ばないかは子どもの自由であり、それが学校の授業内でおいても遊ばない自由が子どもには保障されています。

あくまでも「Spiele Pedagogue(遊び教育士)」は、遊びたい子どもの支えをするのです。(とはいえ、多くの子どもたちは楽しそうに遊んでいました)

この中で生まれる子どもの活動は、受身的ではなく、自発的・能動的な活動であることが重要です。

移動型遊び場

もうひとつは、「移動型遊び場」です。

移動型遊び場の大きなメリットは、どこへでも遊びを運ぶことができることです。

拠点型の遊び場は、その遊び場が設置されている近隣の子どもに対象が限られますが、移動型であれば、どんな地域の子どもにでも遊びを届けることができます。

移動型遊び場はプレイバスに乗ってやってくる

「移動型遊び場」は1972年にミュンヘン市ではじめられ、現在はドイツ全土に普及しています。(詳しくは下の記事をご覧ください)

「遊び」の重要性をいち早く取り上げたミュンヘン市では、1985年に「遊びの風景のまち」のコンセプトを掲げ、子どもの遊びに関わる非営利組織や行政、都市計画家などのネットワーク構築に取り組んできました。

こうした運動の成果もあり、現在も子どもに関わる多くの団体に補助金を提供しているほか、ポップアップ的な移動型遊び場だけでなく、日常的な子どもの遊び場である公園づくりにも取り組んできました。

ミュンヘン市内の公園の一部
ミュンヘン市内の公園の一部
ミュンヘン市内の公園の一部

そうした成果もあって、ミュンヘン市内のあらゆる公園では多くの子どもの姿を見ることができ、ひとつひとつの公園の遊具が非常に工夫された形で設置されています。

そして、こうした充実した公園に加えて、様々なスタイルの移動型の遊び場(プレイバス)が創造的な遊びの機会を子どもたちの元へと届けています。

移動型遊び場の移動図書館

ドイツの子どもたちには、日常的な公園に加えて、拠点型遊び場や移動型遊び場など、様々なレイヤーで子どもの遊びの機会が保障されています。

シティズンシップを育む場としての遊び場

前述したように、ドイツの遊び場の大きな特徴は、拠点型であっても移動型であっても「Spiele Pädagoge(遊び教育士)」が、子どもの創造的な遊びを支える専門職として存在していることです。

「Spiele Pedagogue(遊び教育士)」は遊びの社会教育に関する専門性を持ったスタッフとして遊び場づくりに取り組みます。(もちろんボランティアやインターンとして関わるスタッフも数多くいます)

遊びに関わる人に専門性?というと違和感を持つ方もいるかもしれませんが、ドイツはマイスター制度で有名なように資格や専門職が重んじられる社会です。カフェ店員にも資格があるとも聞いたことがあります。

しかし、ここで重要なのは、資格化されていることではなく、子どもとの関わりや社会教育に関しての基礎的な学習をしたスタッフが遊び場づくりに取り組んでいることです。

そして、それは遊び場だけでなく、ダンスや演劇、音楽、スポーツなど、様々な社会教育の現場に取り組むスタッフも共通して、「Social Pädagoge(社会教育士)」について学んでいるのです。

私はドイツには4回目の訪問となりましたが、改めて今回の研修から学んだのは、学校教育・社会教育ともに、目指したい社会像や市民像が基盤として共有されているからこそ、現在のドイツ社会に繋がっていることです。

過去にはドイツの政治教育をテーマに2回、ドイツを訪問しました。

つまりドイツは、ナチ政権や第2次世界大戦への大きな反省を経て、強い民主主義社会をつくることを選択しました。

だからこそ、ドイツの未来である子どもをアクティブな市民として育て、様々な社会的な課題を民主主義的に解決する力を育むための経験の場を様々な形で提供しています。もちろんそれは、学校だけでなく、社会教育も大きな役割を果たしています。

それゆえに、単なる「遊び」ではなく、「Spiele Pädagoge(遊び教育士)」の考え方が成立したのです。

今回の派遣では、社会教育のなかでもとくに「遊び」に関わる団体を訪問しました。

そして驚いたのは、どの団体に関わる「Spiele Pädagoge(遊び教育士)」からも、その遊び場の目標が「民主主義」「自己決定」「政治的な意見表明」の言葉が出てきたことです。

上で紹介したように、遊び場の子どもたちは決して政治や社会に関するテーマについて議論するような活動には取り組んでいません。むしろ、純粋に遊んでいます。

しかし、純粋な遊びから子どもたちは、考えの違う人同士で何かをつくる経験や、自分の意見表明、コミュニケーション、そして社会や政治との繋がりについて自然に学んでいるのです。体感しているとも表現ができるかもしれません。

このことからわかるように、日本語でイメージする「教育」とは異なる意味で、Pädagoge(教育者)の意味が扱われています。Pädagoge(教育者)は、子どもと社会を繋ぐ媒体のような役割を果たし、子どもが自らの力で学び取る環境をつくる存在です。

そして「Spiele Pädagoge(遊び教育士)」は、言うまでもなく「遊び」を媒体に子どもの学びを促進する専門職であると定義できます。

日本は子どもの学びの大きな比重が学校教育に偏っています。「市民」として育てるという視点を持ち、社会教育の重要性を再評価する必要性を感じます。

ABOUT ME
土肥 潤也
「コミュニティファシリテーター」という肩書きで、すべての人が主役になれるコミュニティづくりに取り組んでいます。コミュニティラボCO-℃(コード)代表、NPO法人わかもののまち 代表理事、日本シティズンシップ教育フォーラム運営委員、内閣府「子供・若者育成支援のための有識者会議」構成員