「若者の社会参加を推進する自治体政策の評価に関する研究」vol.2
複数回に分けて、学部時代の卒業論文で扱った「若者の社会参加を推進する自治体政策の評価に関する研究-欧州の若者政策を参考に-」をブログ調に噛み砕いて、紹介していきたいと思います。
本研究では、日本とイギリスの若者参加に関わる事業の成果指標(KPI等)を比較することで、その違いを明らかにし、日本の若者参加の発展に向けた示唆を得ることを目的にしています。(なお本研究は発展段階にあり、引き続き研究を続けています。)
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【全文】若者の社会参加を推進する自治体政策の評価に関する研究 -欧州の若者政策を参考に-
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参加をめぐる欧州の若者政策の流れ
1970年代の欧州の若者政策は「青少年の健全育成」や「スポーツ・文化・レジャー」を焦点においたもので、「参加」政策は対象外だった。しかし、1980年代になるとポスト工業化社会への突入から、若者を取り巻く社会が複雑化し、エンプロイアビリティ( Employ(雇用する)とAbility(能力)の合成用語で、一般的には個人の「雇用され得る能力」の意味。)やシティズンシップの実現にその主目標が変わり始めた(小林,2010)。
工業化時代を支えてきた農業・工業・建設業といった仕事が、ポスト工業化時代への突入で弱体化し、若年労働市場にも大きな影響を与えた。(宮本2012では、①リスクの多様化、②リスクの階層化、③リスクの普遍化、の3点で現代社会に若者のリスクを整理している。)
こうした背景から欧州では若者のリスクに対応するために、青年期から成人期までの移行過程を包括的に支援する若者政策の重要性が掲げられることになる。包括的な支援のために労働分野のみならず、教育、社会保障、住宅など、分野横断的な要素で構成されているのが特徴である。
表:欧州の若者政策の動向
年 |
内容 |
1985年 |
国連世界青年年 |
1989年 |
子どもの権利条約を国連が採択 |
2001年 |
欧州委員会「若者に関する白書」 |
2003年 |
欧州評議会地方自治体会議「地方・地域生活における若者の参加に関する欧州憲章(改正版)」 |
2005年 |
欧州青少年協定 欧州の若者の懸念に答える |
2009年 |
若者政策の新たな枠組み |
2015年 |
欧州若者報告書2015 |
出典:小林(2010),宮本(2012)を元に筆者作成
各国の政策的転換となったのは1985年にあった国連世界青年年においてシティズンシップの実現の重要性が掲げられたことである。ここでシティズンシップの実現が強調されたのは、雇用問題からくる若者の社会的地位の弱体化にあった(宮本,2012)。
若年労働市場の不安定化により成人期への移行が長期化することで、社会の構成員としての経済、意識面での自立の遅れが表出していた。また、新自由主義的な流れの中で、自己責任論が強化され、社会的に弱い立場にある若者が排除される傾向があり、ひとり自立した市民としてのシティズンシップの獲得が若者政策の主テーマとなったのである。
この時代から、シティズンシップの実現のための具体的な方策として、若者の「参加」が強調され始めた。1989年には、子どもの権利条約が国連で採択され、4つの柱のひとつに「参加の権利」が挙げられた。
(日本も、1994年に子どもの権利条約に批准し、一時的な子ども・若者参加の盛り上がりを見せることもあった。しかし、日本の子ども政策は「青少年の健全育成」が基本的な発想にあり、大人の目から見て何が「有害」で、何が「健全」かを決め、子どもを「保護」することに主眼が置かれていたために、一時的な広がりとなった。)
その後は、2001年に欧州委員会が発表した「若者に関する白書」(White Paper on Youth)には、若者政策の重点四領域のひとつとして「若者の参加」が位置付けられた。その後も、2003年に欧州評議会地方自治体会議によって「地方・地域生活における若者の参加に関する欧州憲章(改正版)」( Revised European Charter on the Participation of Young People in Local and Regional Life (New Edition))が採択され、地方における参加の重要性が掲げられた。その後も、欧州委員会が2005年に発表した「欧州の若者の懸念に答える」(Addressing the concerns of young people in Europe)、同委員会が2009年に発表した「欧州若者戦略」(An EU Strategy for Youth)、欧州評議会が同年に発表した「若者政策の新たな枠組み2010-2018」(a renewed framework for European cooperation in the youth field(2010-2018))においても、若者の参加は継続して強調されている。
こうした欧州レベルの政策をもとに各国は若者の参加に取り組み、自治体レベルでも具体的な取り組みを多く行なっている。実際に、欧州連合が2015年に発表した「欧州若者報告書2015」(The EU Youth Report 2015)では、欧州各国の先進的な参加の実践事例を取りまとめて報告している。
【土肥潤也(子ども・若者の地域参画コーディネーター) プロフィール】
静岡のNPOで活動をしながら、東京の大学院に通う。
静岡と東京の2拠点生活をする実践者兼学生(研究者)
https://dohijun.com/junya-dohi/
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